2012年04月22日 ご質問にお答えして(10) 

 

Q: イヤシロチを創るためには 工事以前の段階で何が重要なのか?

 

 

※このお問い合わせは 前回の「工事中の言霊」の後、施主様から出たもので、私との会話をまとめたものです。

 

 

A: まず企画段階ですが、施主様と設計者の間で、「どういう目的でこのプロジェクト(住宅、事務所、診療所、店舗、工場、etc)をスタートさせるのか」について、共通認識を持つ必要があります。

 

住宅の場合、第一義に「居心地良く、健康的に、安全に暮らし、老親や子孫を守り育てるため」(内的要素)であり、その後、『夢や願望や思い入れの実現』、『コンプレックスの解消』、『社会的成功やステイタスの象徴としての規模、見えがかり』等の条件(外的要素)が備われば良い。

 

事務所、診療所、店舗、工場などの場合でも同じ事で、第一義に「取引先や患者さん、お客様、ユーザーに喜ばれるサービスや料理、製品を安定的に、正確に提供するため」(内的要素)であり、その結果として繁盛して、利益が上がる。

 

つまり、なぜ良い場(イヤシロチ)を創ろうとするのか、施主様(はっきりとした目的を持った発注者)と設計者(施主様の目的、願望を具現化するお手伝いをする者)の間で目標を一致させることが重要です。認識があいまいなまま次の段階へ進むと、無用な混乱をまねき、、焦点がさだまらず、バランスのとれていない「イヤシロチではないもの」ができてしまいます。

 

つぎにデザイン・設計・打合せですが、企画時点で確認した(内的要素)を満たすため、機能性、合理的な動線、必要かつ充分な設備性能、安全性、メンテナンス性、経済性(償却できる規模の意味)を検討していきます。その後、内的諸条件と矛盾しない(この時点でほぼデザインの方向性が見えて来ています)デザインイメージを組み立てます。

 

ここで優先順位を取り違えて、いきなり「イメージコラージュ(ちまたに氾濫するデザインイメージの切り貼り、しかも使いまわしの素材)」や、「コンセプトボード、イメージマップ(トレンド分析、マーケティング理論など手に入る媒体からのコピペ)」などを作るのは厳禁です。デザイン段階での失敗例の大部分はここに起因します。

 

こんな手法でつくった物件は完成した時点がピークで、後は容赦ない経年劣化とデザインの陳腐化(きわめて早い!!)が待ち受けています。

 

つぎに入札・契約ですが、適正な競争原理を働かせるために行なうべき入札に、「弱肉強食」や「共食いの論理」、「不当ダンピング」、「談合」まで発生しかねない危険がある事は常に留意しておきたいものです。

それを防ぐには、一般競争入札での最安値を自動的に「受注者」にするのではなく、指名入札として見積もり内容や施工実績(技術、能力)、負債状況まで考慮したうえで、「受注交渉権利者」として、工事予算調整までを一貫して管理する必要があります。

 

当然これには煩雑な手続きや、応札者からの営業攻勢や受注できなかった業者からのクレームまで、さまざまな問題も発生しますが、「イヤシロチを造る業者の選定」には手間を惜しんだりしてはいけません。練り上げた企画・設計・デザインを「カタチ」にするための必須条件と言えます。

 

 

後は出来上がる工程をひたすら楽しみ、「ものづくりのよろこび」を味わうのみです。

 

 

 

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