2014年01月19日 ご質問にお答えして(11)

 

Q:飲食店舗で新築したのにケガレチ化した実例、原因および実際にどんな改善方法がありましたか?

   

   

※このお問い合わせは 得意先のオーナー店長から、打ち合わせを兼ねた会食中にご質問をいただきました。

 

A:約10年前、懇意にしている厨房器具の設計施工会社の役員から相談を受け、

大阪市内に新築予定のイタリアンレストランの工事見積もりチェックをさせていただいた事がありました。

 

見積もり書を拝見し、業界平均の単価が入っていましたので、「特に問題点も無いと思われますが・・・」

と返事したところ、お施主様から「コストカットしたい」との御要望らしく、

「強いて上げるならこの店舗施工業者にVE(設計意図を尊重しつつ仕様変更等でコストダウンを検討)案の提示を依頼し、なおかつ椅子、テーブルを御自分で購入されては如何ですか。」と回答させていただきました。

 

翌年。前述の役員氏から「お客様がいろいろ困っていらっしゃるので、お店へ同行して相談に乗って上げてほしい」と依頼があり、早速現地へ。お施主様にご紹介され、お話を伺いました。

 

(以下、お施主様からお聞きした経緯です。)

 

「店舗設計施工業者から(初期の打ち合わせで)きれいなプレゼンボードと平面図の提案を受け、一目で気に入り、設計を依頼した。

トントン拍子に打ち合わせが進み、見積もり書を見て値段にびっくりし、この方(厨房器具会社の役員氏)に見積もりチェックをお願いした。」

 

ここで基本図面一式とプレゼンボードを拝見すると、[商店○築]や[ストアデザイ○]等の業界紙に掲載された他店の画像を切り貼りしたもので、

平面計画といえば(そのイメージカットとつじつまを合わせるために)作業動線やサービス動線は考慮されず、設備配置も無理のあるものでした。

 

「置き家具、什器を自分で購入し、業者にVE案を要請すると、空調計画と照明計画を少し変更したぐらいで、後は「出精値引き」で予算に合わせてくれたので契約、着工した。」

 

この時点では、『良心的な、太っ腹な施工業者さんだな』と思ってらしたそうです。

 

「工事中(現場責任者が常駐していなかったそうです)は現場でケンカやもめ事、トラブルが多発し、ついには上の階のテナントさんと暴力沙汰にまでなり、私がテナントさんや家主さんに頭を下げて廻ったが、3日間ほど工事が中断した。」

 

施主様ご自身で職種別の工事関係者と話をして分かった事は、契約を結んだ業者は自社の利益を確保して、工事そのものは下請け業者に安い値段で丸投げしていたそうです。

 

「すったもんだの末オープンし、おしゃれな店にはなりましたが 従業員が次々と辞めていく。

人手が足りず、自分でホールを手伝ったりして気付いたのが作業ストレス。」

 

動線が混乱しているため、飲み物をサービスするためにレジ前の客溜りを通過したり、トイレに立った客が着席するまでの間、ホール係が他のテーブルへサーブするお皿を持ったまま待っていたり、これから配膳する料理と下げてきたお皿でサービスカウンターが山盛りになっていたり、『これではピーク時に従業員がパニクるだろうな。』と考えられました。

 

「周辺に競合するイタリアンやフレンチのレストランが増えてきたのもあり、メニュー構成をシーフードをメインに変更、客席数も減らし、ゆったりとしたオイスター・バー形式にすると効果が有り、売り上げも採算ラインを上回るようになった。」

 

「客席減とメニュー変更で提供する皿数も少なくなり、これで一安心、と思ったが夏場になり、冷房が効かないことと電気代が高いことが気になりだし、同じ頃から給排水系のトラブルも頻発し、メンテナンスの要請をしても見に来たのは数回のみで、

最近ではTELしても 担当者、その上司も含めて『外出している』『席をはずしている』等、居留守を使うようになり、困り果てて(役員氏に)相談した。」

 

その原因はチャコールグリル(シーフードを炭火で調理する)をオープンキッチンの真ん中に設置したことによる輻射熱と、コストダウンのために冷房能力の小さい空調器具に変更したこと、しかも発熱源の真上に設置したこと、照明器具を単価は安いが効率の悪い器具に替え、メリハリをつけるために調光回路を多用したことによる電気代のUP、設備配置に無理(排水経路が長すぎ、排水管の勾配が足りない)をさせている事と考えられました。

 

後日、私が懇意にしている給排水、電気、空調の各設備業者さんに現調をお願いし、改善方法をメニュー形式(それぞれに概算で予算も添付)にしてご提案させていただきました。

 

根本的な解決手段はいずれも高額な費用が必要な中で、採用となった項目はすべて対症療法でした。 

①照明計画を練り直し、照明器具の灯数を減らし、調光回路の使用も控える。

②使わなくなった電気式ピザ釜の電源相当を分電盤の中で切り替え、新規に小型冷房器具を設置。

③夏場限定でオープンキッチンに脱着式の断熱パネルを設置(デメリットとして、厨房側のスタッフにはサウナ状態となる懸念をお伝えしていましたが、スタッフローテーションを頻繁にする事と、モチベーションが維持できる位の特別手当で乗り切られたようです。)

④見た目の涼感を演出するため、客席数箇所に氷柱を設置。

お施主様の依頼の中には、退店した場合の現状復帰費用算出のメニューも有りましたが、

大開口のフロントサッシュの復旧費用が恐ろしいほどの金額になっていました。

 

それから数年。私がご紹介した各設備業者さんへ、時折(有償で)メンテナンスを依頼されたようですが、居抜きでの借り手が現れ、権利売買の条件面も折り合ったようで、施主様から「なんとか破滅から逃れることができました。」と、お礼の連絡が入りました。

 

約一ヶ月後にお店の前を通りかかると、コリアンレストランが(看板やテントの交換、椅子の入れ替え位で)オープンしていました。

 

さらに半年後、またお店の前を通りかかったところ、ゴルフショップがオープンしていました。もちろん、高額な復旧費の面積のフロントサッシュも新調されていました。

ここまでお話しを聞いておられた得意先のオーナー店長は「計画時点のボタンの掛け違いがそんな事になるとは・・・それと、居抜きで出店された方も酷い目(高額な復旧費のフロントサッシュ)に合われたんだろうな・・・・怖いババ抜きだな」と、すっかり食欲を無くされたようでした。

 

 

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