2020年5月5日    ご質問にお答えして(16)

 

Q:『無理を押して成功に結び付いた実例の後日談』を解説希望。

 

※このお問い合わせは ご質問にお答えして(15)『誰もやらなかった事、やろうとして諦めた事を(熱意と工夫、お金と手間etcで)押し切って成功に結び付いた実例』後日談について

 

 HPを閲覧された方から Contact ページのメッセージフォームで 『大成功したお店は、その後どうなりましたか?』とご質問をいただきました。

 

A:大成功したお店は、すぐに廻りから研究され、コピペ等でまねされます。しかし、デザイン面のいいとこどりみたいなことは大失敗の原因となります。

 

 ミナミ区心斎橋の鰻谷にオープンした『レストランバー・エンメ』からわずかに2キロと、 すぐ近所の天王寺区に、

デザインをコピペしたプールバー(〇園坂〇球倶楽部)はOPEN後すぐに閑古鳥が鳴き、半年足らずで閉店したようです。

 

    お施主様が見に行ったところ、『工事費や家具什器備品、設備関係で最低5千万円は掛かっているだろう』との事で、『わざわざ大金を掛けて引き立て役を務めてくれてありがたいね。ご苦労さん。』とおっしゃっていました。

 

  さらに翌月、東京・渋谷にもデザインを丸パクリした店が業界誌『商〇建築』に掲載され、お施主様が『ニセモノが出だしたら、うちの店もハイブランドとして認知されたという事。』と喜び、

 

  このチャンスに、更なる経営戦術として『自社経営ブティックのつながりで懇意にしている外人モデル(金髪碧眼)を店の一番良いところに(あらかじめ、全ての席にreservedの表示を出して置く)座らせる。

 

  また、入口にドレスコードを設けて、うちのブティックでお買い上げ頂いた、ア〇マーニやベ〇サーチ等を着ているお客様は最優先で目立つ席に座らせる。それ以外は店の隅の方に案内する。混んだ時間帯には、予約で満席を理由に入店を断る。』

 

  こうして、『顔パスで入店して、いい席に座る』事がステイタスとされ、中二階のVIP席のソファで高々と足を組んで座る客の姿が まるで VOGUE(ヴォーグ)の見開きページのように映え、廻りから羨望の眼差しを向けられるようになりました。

 

 

 その秘密は、工事期間中のお施主様とのディスカッションのテーマが、『かっこいいか(お洒落に見えるか)否か』のみであり、各部の寸法を決める時の法則として、あらゆる寸法を『黄金比 1:1.618』、『白銀比 1:1.414』で割り付けした事です。

 (メンテナンス性、接客時の作業ストレス軽減、設備的必然性等は私の意見に従っていただきました。)

 

 その空間を背景に金髪モデルや当時の高級ブランドに身を包んだ客が座ると、あたかも一流カメラマンが捉えた渾身の1カットのように絵が決まりました。

 

  そんな工夫もさらさら無く、単純なコピペで構成されたお店は、すでに第一印象から安っぽく、浅く見え、薄っぺらいパチモン感がただようのです。まさに、『本物からわずか2kmの距離(場末の立地)でニセモノ役になってくれたのです。』夜遊びするお客様には物笑いのネタでした。

 

 どうしていまさら秘密を明かしたかといいますと、店のフロアスタッフ達が東京へ出ていき、新しいお店の面接を受けると、履歴書の職歴欄に大阪時代にこの店で数年働いた、と書いて置くと面接した東京のお店の経営者や店長達が、『ほう、あの店で働いていたの。』となり、即採用、となったようで、そこのスタッフになった人達が 廻りから『兄さん!』と立てられてその秘密を全て話したらしいのです。

 

 また、お施主様自身も、雑誌のインタビューやスタッフミーティングの時にしゃべりまくったようで、業界の常識になってしまったからです。

 

 

 ずっと繁盛されていましたが、なんと20年後、お施主様から『大家さんが亡くなったのに伴う代替わりで、家主側から建物の明け渡し訴訟を起こされているので証人として協力してほしい。』と連絡がありました。

 

 驚いてお話を伺うと、『店が流行って、20年の間に近隣ともに公示地価がとんでもなく上がっているのでこんな問題を吹っ掛けてきたんだが、建物の違法改造を争点として明け渡しを求められている』との事。私は、『古い話ですが、最初のプランで着工、解体工事にかかる前に建築基準法で事務所ビルから飲食店舗へと100㎡を超える面積の用途変更は届出が必要、ということで大家さんに設計図と届出用紙にハンコを貰いに行ったのではないでしょうか?』

 

 と申し上げると、『大家さんは口頭で、建物を良くするためならなんでもやって下さい。との返事で、特に書類を交わしたりしていない。』との事。私は、『それは難しいことになりましたね。しかし、現状のままで営業、賃貸契約を更新し続け、約20年後の明け渡し訴訟、となると弁護士さんにお任せするしかないのでは?もちろん、証人になる事を含めて、協力を惜しむものではありませんが。』

 

 その後、訴訟に応じて行動されたようですが、決着がついたようで、それから12年後の現在も無事営業中で、この業種の大箱(55坪X3フロア=165坪)店舗では驚くほどの長期間(通常、一世風靡した大箱ほど、短期間で閉店している)、繁盛されています。

 

 

 

次に、大成功したカラオケボックスの件ですが、なんば千日前という庶民的で親しみやすい繁華街で開店したお店には、『あそこは儲かっているらしい。』という噂がすぐに流れ、

 

 真似して自分も儲けようとする人、あわよくばお金をかすめ取ろうとする人、怪しげな投資案件を持ち込む人等、『人間の欲にまみれた修羅場の状態』が渦巻きます。

 

 最初のトラブルは、OPEN後10ヶ月の8月初旬、『自社ビルに2号店を作る!忘年会シーズンに間に合うように、11月中にOPENしたい!』との事で大急ぎで打ち合わせ、設計期間中の頃、

 

 家主からの賃料値上げ要求ですが、これがいきなり『坪単価を倍にする。』というもので、当初の坪単価1万円(相場は1.2万円だが、地下の200坪という商売が難しい面積のこともあり、お施主様と大家さんが適法化費用も含めた交渉の上で合意した金額)だったものから、

 

 常識外れの値上げ要求ですが、大家さんの言い分は『こちら側の見立てでは月商が○○○として、粗利が○○割、月家賃の400万円なら払えるのじゃないか?』というもので、

 

 お施主様も『そんな法外な・・・・5割UPの月300万、年間で3600万円で手を打ちませんか?』折り合いがつくはずもなく、交渉がまとまらないまま、ミナミ千日前商店街のNGK横、という超一等地に2号店が完成し、毎晩お客様で満杯になり、溢れたお客様は200M離れた地下店舗(1号店)で吸収し、倍旧の大繁盛となりました。

 

 するとお施主様から大変な剣幕でTELが入り、『すぐに店に来てくれ!』との事。いつもは温厚なお施主様の激昂した口調に、青くなって飛んでいくと、こともあろうにレジャービル側の経営によるカラオケBOXが1号店(地下店舗)のすぐ隣にOPENして、地下店舗の看板より遥かに目立つ看板をかかげ、しかも店前に客引きを数名立たせ、『え~カラオケはこちら!内装も豪華で設備も最新!』と声を掛けていました。

 

 お施主様『営業妨害や!訴える事はできないのか?』とカンカンに怒っておられます。私は、『確かに、ここまで露骨ないやがらせは近頃珍しいです。しかし、警察に言い立てても民事不介入、という事で取り合ってくれません。民事訴訟でも、被害の認定は非常に困難な事になり、費用も時間もかかり過ぎます。勿論、知り合いに弁護士さんがおられましたら、ご相談なさって下さい。ここはひとつ、まともにやりあわずに済む方法を考えたほうが現実的でしょう。』

 

  少し冷静になったお施主様と打ち合わせた結果、『1号店の前面に、より派手な看板を掲げる事は相手と同じ方法でやりあう事になるので却下。2号店で溢れたお客様には、お会計時のサービス券を持たせたうえ、2号店のスタッフが観光ガイドよろしく、お客様グループを1号店まで引率する。相手側は2号店の前まで客引きを立たせてきましたが、数か月の内に2号店と同じ立地条件の、ミナミ千日前商店街の超一等地に後発のカラオケボックスがいきなり5店舗も開店し、

 

 2号店で溢れたグループ客を導入するシステムを取ったお施主様に対し、そこから200Mも引っ込んだ立地に立つビル直営のカラオケ店がとりうる手立ては料金のダンピングしか残っておらず、しかも千日前だけでも後発第一波が5店舗もできたので、第二波にはその倍が近日中に開店することが予想され、たちまちオーバーストアとなって料金の値下げぐらいでは焼け石に水、と察したビル側のカラオケ店は閉店してしまいました。

 

 と同時に、『善意の第三者』を名乗る人物が訪ねてきて、『ビル側と家賃値上げで揉めているらしいと聞いたので、交渉を取り持ちましょうか?』と言ってきましたが、そのころにはお施主様もすっかり冷静な判断を示し、『最近競争相手が増えすぎ、今後更に厳しくなるので、家賃が値上げとなると採算が見込めず、移転するしかない。』と返し、値上げ話そのものが消えてしまいました。ビル側にとっては、最初の5割UPの回答時すぐに長期契約で更新しなかったのがとても悔やまれる事となりました。

 

 そのころ、実際にお施主様と私は、3号店の出店を念頭に置いて、泉北ニュータウン等の倉庫物件(1号店のプレハブ冷蔵庫パネルで作った各個室や、カラオケ設備、管理システム、冷暖房システム等を移設転用して、低コストで開店できる) を見て廻るうち、車中でお施主様がおっしゃられ事ですが、

 

 『元々、初期ボウリングブームで年中無休、24時間営業をして毎朝の売り上げ集計で手提げ金庫の蓋が閉まらんほど儲かったのだが、それを全てつぎ込んで58レーン(当時、レーン数の多さが宣伝文句になった)の2号店を作り、出来上がった瞬間に、ボウリングブームが終わり、全てを失う事になり、翌年の税金やらで借金が残っただけだった。 千日前でも、自分の店だけは投下資金を回収できた途端に 後発カラオケ店の第一波で5店舗ほどが開店したが、その中で投下資金を回収できるのは1軒あるかどうかだろう。更に後から開店して来るのも含めて、大赤字で撤退、となるのが目に見えるようだ。』

 

 1号店の全部屋が朝までフル稼働しだした頃から、明らかに業者とクライアントの組み合わせらしい客が増えだし、部屋でカラオケを楽しむ事も無く、店内を歩き廻ってこそこそ耳打ち話をしたり、受付カウンターの裏側を覗き込もうとしたり、『ノウハウを盗みにきたな。』というのが丸わかりだったが、料金を払ってくれる客に出て行って貰うわけにもいかないので、放置していたが、いずれも1時間ほどで帰っていった。

 

最初から紹介者とともに辞を低くして『見学させてください。』と来た人には、部屋料金も取ることなく、

店の裏側まで全て案内し、説明もした。概算での投資予算や売り上げ、原価率も(税務署に全て把握されているのが判っていた)教え、その時に必ずボウリングブームの顛末も実体験として語り、結論として利息の掛かる資金ならお止めなさい。遊んでいるお金で始める、というのならアドバイスもするし、信用できる業者も紹介します。ただし、家賃の高騰、競争激化(盗み見に来た客たちの数)による客単価の減少、利益率の低下、大手資本が次々参入して来る情報、カラオケブーム終焉の後どうなるか?を覚悟したうえで、それでも大博打を決断なさるのなら、全面的に協力させて頂きます。』

 

 するとほとんどの人が震え上がって帰ってしまう中、唯一開業までこぎつけたのが、ボウリング場経営時代の元社員の方で、堺市で現在盛業中のゲームセンターを経営されている一角にカラオケコーナーを設ける、というもので、元々の客層とカラオケコーナーとの相性も良く、ボウリングブーム終焉の時も現場に立っていられた経験もあり、適正規模での開業、ということになり、無事、繁盛店となり、成功されました。

 

 この後も、『一人勝ち』したお施主様に対する嫉み、やっかみから悪意にまみれたトラブルが次から次へと発生しますが、数々の成功と修羅場を体験されたお施主様の効果的に打つ手が難局を切り開く姿を目の当たりにして、とても勉強になりました。

 

 

 

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